VERVEという名前は、創立者のコルビーとライアンによって付けられました。彼らが好んでいたアメリカのジャズレコード会社の名前でもあり、「情熱」という意味も込められています。
その名前にちなみ、What's your VERVE?では、常日頃VERVE COFFEEに関わってくださる皆様の「情熱」(VERVE)をお送りします。
今回は、花道家・いけばな教授者としてご活躍されるTumbler&FLOWERS主宰の渡来徹さんにお話を伺いました。
渡来さんはVERVECOFFEE鎌倉店でいけばなレッスンを行うなど、鎌倉を拠点として精力的に活動されています。そんな渡来さんが考える「六本木」という街とは。
そのほかに、VERVECOFFEEの存在やいけばなに対する原動力にもクローズアップしお届けします。
渡来徹 | Watarai, Toru
花道家、いけばな教授者。『Tumbler&FLOWERS』主宰。男性ファッション誌や情報誌 でライター、編集者としてキャリアを重ねたのち、2012年にいけばなの魅力を広く伝えるべく『Tumbler&FLOWERS』をスタート。2018年にはシドニーやウィーンにて IKEBANAマスタークラスを開催。2019年はLOEWEのクリエイティブディレクター、 ジョナサンアンダーソンに招かれてSalone del Mobile. Milano 2019にてLOEWEの バスケットコレクションへの装花、顧客へのワークショップを行う。 雑誌掲載、ラジオ出演など多数。近著に『ととのえる「いけばな」』(彩流社)、作品集 『EYES OF IKEBANA』(Hijiki.)がある。
11/15(月)〜12/15(月)まで間、VERVE六本木店内にて、3名のアーティストのご協力のもとアートイベント「LOCAL&STREETLEVEL」開催しております。
「LOCAL&STREETLEVEL」の詳細はこちらから
VERVE COFFEEの存在
(六本木店店内の様子)
Q昨年に引き続き、今年もご一緒できて嬉しいです。六本木以前は鎌倉店でのイベントからご一緒させていただいておりますが、渡来さんにとってVERVECOFFEEはどのような場所ですか?
渡来:六本木店も鎌倉店もゆったりとした座席配置がいいですね。ガラスや鉄などの無機物で構成された中にあって人が触れる机や椅子は木が多用されていたりと、VERVEのさっぱりとしつつ温もりを感じる空間が好きです。
VERVEとは、鎌倉に拠点を移した時に知人を通じて紹介していただいたご縁ですが、こうしてポップアップやワークショップを気持ちよく行える空間に出合えたことはさいわいでした。いけばなをやるにあたっては、ごちゃごちゃと情報量の多い空間だと花にフォーカスされにくいですし、ミニマルに統一されている空間には好感がもてます。
いけばな教室を開くときに、カフェのような気軽さで立ち寄れる場で、食べ物やコーヒーに代えていけばなを提供できるといいなという考えがありました。そういった点でもVERVEとご一緒させていただくのは原点回帰というか必然だったと思います。
溢れる地元感「六本木」
(六本木店店頭)
QTumbler&FLOWERSは3年前に神宮前から鎌倉に拠点を移されましたよね。今回の「LOCAL&STREETLEVEL」では、地域との接点がテーマですが、六本木という街はどのような印象ですか、何か繋がりなどありますか?
渡来:昨年も感じたことですが、とにかく六本木店はお客さんが面白い。特に近隣住民の方とのコミュニケーションは学ぶことも多く、愉しいですね。
私自身、かつて西麻布に住んでいたこともありますし、今もいけ込み先が六本木にあるため、六本木界隈は比較的馴染みのあるエリアです。なんというか、六本木の清濁合わさった雑多な感じがとても好き。やりとりしてみると地元の方の下町っぽさというか人懐っこさも六本木の魅力ですね。
鎌倉での出店時は観光客が多い分だけ、地元の方とのコミュニケーションが限られます。もちろん観光客にご興味を持っていただくのはありがたいことです。ただ地元の人のニーズを知りたい、という自分の思いで出店している面もあるので、ここら辺は今後もVERVEさんと継続的にお取り組みしていく中で探っていきたいところですね。
私がポップアップをやるのは、お客さんとの会話の中から「欲しいもの」を見つけてかたちにすることだと思っています。この点で、お客様との距離が近く、地元の方が立ち寄ってくださる六本木店での取り組みは、とても愉しいんですよね。購入してくださった方が翌日感想を伝えにきてくれるというのもありがたいです。
Q今回のイベントのコンセプトやテーマについてより詳しくお聞かせください
(六本木店店頭での様子)
渡来:六本木店での取り組みに当たっては、「季節の風景を作りたい、残したい」という思いがまず先にありました。毎年決まった時期に決まった場所に立ち上がる季節の風景です。11月の中頃になって「今年もVERVEの前に花屋さんくるかな?」なんて近隣の方々が愉しみにしてもらえたらいいなって。季節が巡るのを実感してもらうきっかけになれたら、というのが花道家としての想いでもありますから。
それと昨年、六本木店でPOPUPをやらせていただいた際に、通学、通園のお子さんが多いことに気づきまして。子供たちにとっては日々変わらぬ街並みであるよりは、思わず寄り道したくなるような場所になるといいな、とも思いました。
今年店頭に立ってみると、嬉しいことにお客様から「去年もここでやられてましたよね」とか、「去年の気に入ったから今年も買います」なんてお声をかけいただいたりして、すでにリピーターがいることに嬉しくなりました。SNSなどによる事前の告知などによらず、ただ日々VERVEを利用されてらっしゃる方も中にいらっしゃるでしょうから、こうしたコミュニケーションが生まれるのも、人の暮らしに溶け込んだカフェの店頭だからこそだとも思います。
自分がリースやお正月飾りなどをこうした街場で売ることで、季節を彩る愉しみはもちろん、日常的に花を飾る習慣がみなさんの暮らしに溶け込んでいけたらいいなと。
「いけばなとコーヒー」
Q以前、「いけばなの愉しみ方だって千差万別あるはずです。」とお話しされていたと思います。たのしみ方が人それぞれという点で、コーヒーも似ているところがあると思ったのですが、渡来さんはいけばなとコーヒーの親和性とはどのようにお考えですか?
渡来:先に伝えたようにカフェといけばなは暮らしを彩る、心を満たしてくれるという点で共通しています。また、たとえばコーヒーの淹れ方ひとつとっても、花のいけ方に似てますよね。バリスタが10人いれば10通りの淹れ方があるように花もそれぞれが自分の追求する理想があって、花材に向き合って作品にしている。
お客様に美味しい、鑑賞者に美しいと言っていただくことはもちろん大事です。ただそれ以前に自分が飲んで美味しいと感じるか、豆のキャラクターを引き出せているか。いけて美しい、あるいは植物の魅力を引き出しているか。乱暴な物言いになるかもしれませんが、コーヒーも花も「好みの問題」で片付けられちゃったりもします。だからこそ、客観的な視点は必要ですが客観軸ではなく、主観軸で対象を判断しているわけです。バリスタがコーヒーの淹れ方について話してくれるのを聞くのが好きなんですが、こういった共通点が垣間見えるからかもしれません。
植物的な原動力
Qもともとは趣味の竹花入れに活かすためにいけばなを始められたとお聞きしました。今では従来のいけばなのイメージをくつがえすような、新しいアプローチで精力的にご活躍されていますが、自分を動かす原動力はなんでしょうか?
渡来:難しい質問ですね。いけばなにはさまざまな魅力があって、その魅力をどうやって切り出して多くの人に伝えるのか。ざっくり伝えきれないからこそ、こうして青空アトリエ、なんて銘打ってPOP UPをしている部分もあります。
私自身は、いけばなで世界を取りたいわけでも、たいそうなお金持ちになりたいわけでもありません。ただいけばなを通して思わず立ち止まってしまうような、そういう景色を、作品を残していきたい。たぎるような熱い想いというよりは、多くの人にとって、いけばなの魅力に触れる機会が減っていくのは面白くないな、では私がやろう、そんな感じなんです。割と植物的というか、種の落ちた土地に環境に適応して生き抜こう、種をつなごうという能動的な部分と、なすがままなされるがままな受動的な側面と。
以前、海外の仕事に招かれたときに、招待状を受けたのは自分自身ではなく、自然を見出す私の「目」と、それを切り出す「手」を呼んでいただいたんだと実感したことがありました。私自身の意識はそれらの運び屋にすぎない。もしかしたら、今のところは自分の中にいけばなの神様がいらして、「汝、いけばなの楽しみを多くの人に広めなさい」的に突き動かしてくれているのかもしれない。だから私はこの目と手が有効に働くように努めないといけないんです、なんて割と真剣に思ったりもします。
だからこそ私は、いけばなや植物の魅力を切り出すイメージが自分の中に降りてきているうちは、つぎにつぎにと作品をかたちづくるべきなんだなと。
花道家として、今後の活動
Qよろしければ、渡来さんの今後の活動についてお聞かせください。
渡来:鎌倉の自然を通じたいけばなの奥行きを紹介すること、それともう少し海外で伝える機会を増やしたいですね。昨年、台湾でWSを行う予定だったんですが、COVID-19によってキャンセルになってしまったんです。自然との付き合い方や、それが可視化されたいけばなというものを、多くの方に伝えたいです。
それと、いけばなのお稽古などを通じて、皆さんの空間、あるいは余白に対する意識の働きなどを掘り起こしていきたいと考えています。植物やいけばなにフォーカスを当てすぎると、皆さんの認識しているいけばなの枠に閉じ込められてしまう部分もあります。だからこそ、空間を通じていけばなを俯瞰して見てもらえる場を作ります。
実際のところ、私がいけばなって幅広いよ奥深いよと言ったところで、皆の意識下にあるいけばなは、特に視覚的な面では昭和の時代からたいして変化していない。それでは、今の時代に必要です、といったところで無理がある。だからこそ、時代の要請にあったかたちでいけばなを案内し続けねばなりません。
斬新なアプローチとおっしゃっていただくこともありますが、いつか誰かがやったものかもしれませんし、新しいも何もその基準が過去に置かれたものであるなら特段の意味は持ちません。ただ私は今の時代といけばなが交わるところを見てもらいたい、伝えたい、そう考えた結果にすぎないわけです。だからこそ今以上に効果的に植物をみせるため、あるいはいけばなを伝えるための方法は常に考え続けています。
年末POP UPスケジュール
渡来徹 12/22(水)~23(木) 9:00~日暮れまで @六本木店
Tumbler&FLOWERSの青空アトリエにて正月飾りの制作、販売。
昨年ご好評いただきましたお正月飾りのポップアップを今年も開催いたします。
松や縁起物の植物を使ったしめ飾りや、来年の干支にちなんで高知の銘竹、虎斑竹を取り寄せまして、お飾りに仕立てます。
どれも植物の在りように任せた気ままな一点ものです。
ご希望に応じたオーダーメイドも承ります。是非お立ち寄りください。
What’ your VERVE?では「LOCAL&STREETLEVL」にご参加いただいている3名のアーティストの方々のインタビュー記事を公開しております。
詳しくはこちらから
<参考記事>マルチメディア・トランスレーター 安達ロベルト~What’s your VERVE?#2~
<参考記事>油絵画家 アラン・ファンニング ~What’s your VERVE?#3~
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